Trainwreck=列車事故と名づけられたアンプがあります。
前回、Matchless HC30 Ken Fischer modをご紹介したのですが、アメトモのnobuさんから、マイナーでは?とご指摘をいただいたので、少しTrainwreckの事を書いてみようと思いマス。
知ってる人には今更の内容だと思いますので、その場合はスルーお願いします。
ケンを語る前に、この人の話を少しだけ。
恐らくギターマニアであれば、ハワード・ダンブルの名前はご存知ではないかと思いマス。
彼はフェンダーアンプ、特にブラックフェイス期のアンプのモデファイで有名になった人で、それが高じてオリジナルのアンプも作るようになりました。
有名なのはラリー・カールトンやロベン・フォードが使っていたODS(オーバードライブ・スペシャル)で、巷に溢れているダンブル系と呼ばれるアンプはこちらのクローンだったりします。
彼は職人にありがちなカナリの偏屈者だったようで、気に入ったアーティストにしかアンプを作らず、そして大抵の場合、プレイヤーからの要望は無くすべてお任せ状態、つまりハワードがプレイヤーのスタイルに合わせてチューニングしたアンプを作ったのだそうです。
だから同じアンプは存在せず、其々のアンプがそれぞれの個性を持っていると評価されています。
ちなみに、当時の販売価格は、今からは想像できないほど大変良心的なものだったようです。
僕はSRVで彼のアンプの事を知りましたが、それはジャクソン・ブラウン所有のSSS(スティール・ストリング・シンガー)でした。
なんでもジャクソン・ブラウンはベースで使用していたらしいですが、本当でしょうか?
Ken Fischer
May 12, 1945 – Dec. 23, 2006
“I want an amp to be fast and dynamic.
I want to hear the note with multiple layers of harmonic complexity,
giving a fat, euphonic, and lyrical tone.
I like an amp to have an awesome clean sound, yet rock my world when I dig in.”
“My goal is to make amps that make the soundtrack to people’s lives.”
上記はTrainwreckのHPからの引用です。
ケン・フィッシャーは、前述のハワード・ダンブルに多大な影響を受けたと語っています。
アンペグ社でアンプの開発に関わり、同社を辞した後は、なんと趣味のバイク店の経営を始めます。
主に扱っていたのは日本製のバイクだったようですが、当時のアメリカ政府の保護政策(要するにハーレー優遇)で経営は傾き、アンプのリペアで生計を立てるようになったとか。
Trainwreckとは、直訳すると列車事故なんですけど、この言葉には「激しい事故」とか「暴走野郎的」な意味合いがあるみたいで、彼は自身の愛車のハンドルをTrainwreckと呼んでいたのだそうです。(彼自身の仇名だという説もあり)
彼のリペアショップは直ぐに評判となり、バックオーダーを大量に抱えるようになるのに時間はかかりませんでした。
彼曰く、
「無能なリペアマンが時間給40$で無駄に10時間も時間をかけたあげく、ズレた場所を修理して400$と部品代を請求するのさ」
「俺は違った。15分で適切に原因を見つけて修理し、奴の1時間分の給料と同じ40$と部品代を請求するのさ」
「勿論、こっそり無事なトランスをちょろまかしたりはしないぜ」
「考えてもみろよ、修理用に出回っているマーシャルのオリジナルのトランスの出所を」
「そうやって商売していたら評判になったのさ」
なんとなく良くも悪くも彼の人となりが伝わってくるエピソードではありますw
さて、アンプショップの経営が軌道に乗ると、彼は自身のためのアンプを設計始めます。
それが前述の愛車のハンドルの名前を冠したTrainwreck Expressの第一号機でした。
かれの祖母の名をとって[Sala」と名づけられたアンプは、初の有名人顧客 ZZ TOPのビリー・ギボンズの手に渡ります。
彼は自身のアンプをシリアルでは呼ばず(シリアルも有ることは有るらしい)名前を付けて呼んでいました。
曰く「自分の子供をシリアルで呼ぶヤツはいないだろ」とのことですw
ここで興味深い話があります。
Expressの出力トランスは一貫しておらず数種類のモノを使用しているらしいのですが、それは同等品が手に入らなかったからではなく、実験だったと彼は語っています。
彼の持論は、「トランスは良いアンプを構成する上で重要な部品ではあるが、決定的なものでは無く、回路その物やほかのパーツとのバランスが重要である」と言う事で、それを証明するためにも色んなトランスを試したのだそうです。
彼は語っています。
「Express用のトランスを発注している会社が取引先を広告に載せたのさ。その中にTrainwreckの名前もあった。だからいろんなところからトランスの引き合いがあったみたいだね」
「その中にはTwo Rockとか言う所もあったが、奴等は結局Expressをまねるのは諦めてダンブルを作ったのさ」
なるほど!
と思いまいしたが、でも結構個体差あるみたいですよね彼のアンプもw
さて、ハワード・ダンブル同様、アンプのモデファイから徐々にその名声を築き、オリジナルのアンプを作るようになったケン・フィッシャーですが、ダンブルの事は常に一目置いていたようです。
「世の中にくだらないダンブルクローンは沢山あるけれど、どれも本物とは比べものにもならない」
「ハワード・ダンブルの洞察力は本当にスゴイ。彼のアンプを見たら、何を考えているのかすぐにわかるんだ。話をしたことなんかは無いけどね」
「本当にダンブルとまったく同じアンプを作れるのは世界中に俺だけだ。同様にTrainwreckと同じものを作れるのもダンブルだけだ。」
「だけど俺はダンブルを作らないし、ハワードもTrainwreckを作らない。それが尊敬ってもんだ」
彼がここまで持ち上げるアンプビルダーはハワード・ダンブルだけですね。
ただ晩年までDrZとは親交は厚かったようで、回路のアイデアなどをいくつか提供したことも有ったようです。
さて、彼の代表的な作品はExpressとRocketでしょう。(写真はExpress)
特にExpressはカラハムのアンプの元に成っているので、日本でも知名度が高いと思いマス。
Expressの回路図です。
こちらはRocket
どちらかと言うとヴィンテージ・マーシャル系に近いExpressと比べ、RocketはAC-30を発展させた設計の様ですね。
Expressのデモです。演奏は2分当たりから始まります。
ウオームで太いが、決してコモらず分離も良い、適度なコンプレッション感はゲインを上げても変わらない、本当に素晴らしい音です。
僕は幸いにも、本当に幸いにもアメトモのnobuさんから、このアンプを弾かせていただきたことがアリマスが、本当にこの動画の音が出ました。勿論ギターのウデは差し引きしないといけませんがw
残念ながらRocketはオリジナルの動画が見つからず、replica同志ですがExpressとRocketの比較動画です。
彼が最後に関わったのがKometアンプです。
値段が高騰してしまったExpressとRocketの事を彼は悲しんでいたようです。
だからこのアンプの企画を持ちかけられたとき、彼は安価で安定した品質を提供することを第一にこのアンプを設計したのだと聞きました。
また、企画者の意見を尊重し、アンプとしては幾つかの妥協もあると語っていますが、それでもこのアンプには随分思いれが合ったようで、一般的にTrainwreckほどの評価がされていないこのアンプを、彼が悪く言う事はありませんでした。
僕のHC-30には、「この星で一番いい音がするマッチレス。byケン・フィッシャー」
とプレートに誇らしげに刻まれています。
初めて見た時は「なんじゃ、この下品なプレートは噴飯ものだナw」と思ったものですが、アンプ(音楽)に対する(SRVやRory Gallagherと同種の)アツイ思いを知ってからは、彼のプライドが理解でき、そして愛おしく感じるようになったのです。
このアンプにはケン直筆の簡単な(本当に驚くほど簡単なw)取説がついていますが、それによるとExpressとRocketの中間を狙ったアンプなのだそうです。
ともあれ、今はこのアンプを手に入れることが出来た幸運に感謝しています。
情報を提供してくれたnobuさんにも感謝デス。
そして、本当に有難うケン。あなたにこの記事を捧げます。
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列車事故という名のアンプ Ken Fischerに捧ぐ
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